第215回 グラ/\の思ひ出

 痛みは引いた。人一倍食ひしん坊なのだが、齒状が餘りよくないので、長らく上本町のこむ●齒科のお世話になつてゐる。
 以前、硬いするめを食つたとき、ガチーつとなつて、奧齒がぐら/\してた。舌で庇つて發聲發音がしにくい状態に陷つたので、拔いてもらつたんだ。拔いてすつきりした。
 拔くまで食事のときが大變だつた。一生懸命噛まなくてはならないものや、噛り付かなくてはならないものはなるべく避けてゐた。例へば固燒きせんべい、ドロップ、ニシンの燒ゐたん、二日前の冷やご飯(冷藏庫)、すぢ肉とかは最近食べてない。
 數日前、とんかつを食ひに行つた時だ。僕らは激しく仕事にゲンを擔ぐので、無性に「厚切りロースカツ定食」を食べたいと思つた。「分厚く勝つ」といふ音の響きがいゝぢやないか。
 でも近所のテーブルの人の食べてゐるものを見て、少し弱氣になり、注文の際は、
 「厚切りロースカツ定食、切り方をちよつと薄切りで」
と頼むと、
 「それなら厚切りぢやない普通のロースカツ定食がありますが」
などゝいふ。僕は
 「それでは困るんです、厚切りロースカツが食ひたいのです、でも切り目は薄く入れてください」
 「だつたら普通の」
 「そこをなんとか厚切りを薄切り、厚いの薄くでお願ひします」
 こゝでふと「西天滿東」や「南港北」の交叉點を思ひ出した。
 厚切りロースカツの薄切りはおいしゆうございました。
 
【陣中日誌兼戰鬪詳報】
朝、お握り、味噌汁、大根の葉の漬物。
晝、味噌ラーメン普通盛り。
夜、王將餃子(家燒き)、娘のチキンカツ殘り、キュウリと蟹かまぼこのサラダ、ワイン一合。