第166回 甲第三類「掛けご飯」

 掛けご飯は嚴密な器による呼稱と形態の變化がある。お氣付きだらうか。
 例に、掛けご飯の基本形で、母さんお出かけの際のメインメニューであるカレーを取つて檢證してみやう。「皿」に飯を盛つた時、これを「カレーライス」と呼び、盛り飯の約半分に半月状に掛ける。ところが飯を「丼(ドンブリ)」に盛ると内容は全く同じものであるのに、いきなりこれが「カレー丼」となる。そして丼と付いたらカレーは飯の全面に掛けられるのだ。
 カレーだけではない。ハヤシライスとハヤシ丼、シチューライスとシチュー丼も同じ規則に支配されてゐる。これは器を變へるだけで洋の東西線を瞬時に飛び越すことができるといふことを指す。
 この意味において、掛けご飯の一類である「茶漬」は、より明示的に「茶漬丼」と呼ぶべきであることが賢明な讀者諸候には諒解せられたことであらう。また茶漬を皿に盛れば(その機能的な部分は目を覆つたにしても)、「茶漬ライス」として、ニューヨークの街角のアヂア人經營の日本料理店にキムチやザーサイとゝもに出てきさうではないか。
 天丼、玉丼、中丼等は、皿に盛ればそれぞれ天ライス、玉ライス、チューライスとなる。この場合の具は半掛けとなることには充分ご注意を頂きたい。
 もちろんスプーンであることは言ふまでもない。
 
【陣中日誌兼戰鬪詳報】朝、ポタージュスープ。晝、吉野屋の牛丼、卵、味噌汁。夜、うどん、菜の花のおひたし、山芋蒲鉾、ヒヂキの炊いたん。