第146回 窒息

 近所のカナエが閉店した。そのスペースにサンエーといふスーパーが入つた。どちらもCGCグループで、賣つてるものはさほど變はらない。今日がそのオープン初日だ。
 娘二人を連れて、サンエーを視察。初日とあつて、店内はごつた返し、店員も大忙しである。
 ハム屋のイベント用着ぐるみ「ハーミィちやん」が來てゐた。娘たちは早速にハーミィちやんに抱きつき戲れてゐた。
 ハーミィちやんは、棒つき風船を子供たちに配つてゐた。ピンクとオレンジの風船を貰つてご滿悦な我が娘たち。
 危ないところであつた。ラストの二本だつた。風船がなくなつたのだ。
 そこへ、三歳くらゐの子を連れたマヽが來た。その子がハーミィちやんに「風船を下さい」とお願ひした。
 ハーミィちやんは話せないので、女の子に手眞似で「ちよつと待つてゝね」と示すと、一分ほど持ち場を離れスーパーの法被を着た若い營業風の人を引つ張つてきた。
 營業風氏はガサ/\と袋から新の風船を取り出して己の口でフウ/\と膨らませだした。ゴムが固いのだらうか、顏を眞つ赤にして吹き續けてゐた。
 風船が完成してハーミィちやんがその女の子に風船を渡した。後ろでは營業風氏の息が上がつてゐた。すると風船配布が終はつたと殘念がつてゐた子供たちが「えっ、まだ貰へるの?!」とワラ/\湧いて集まつてきた。僕はハーミィちやんの近所にゐたので、中の人が「アチャー」と聲を出すのを聞く光榮に接した。
 その後、八つの風船を見事膨らませた營業風氏が、ふらつきながらしやがみ込むのを見屆け、僕はその場を去つた。
 歸り道、マヽ友の一團が七、八人の子供を連れてサンエーに行く風であつたので、僕はその集團に聞こへるやうに聲を張つた。
 「風船がタヾで貰へて良かつたねー」と。
 子供たちは風船といふ言葉に反應してサンエーに向かつて全員走つていつた。
 
【卷頭付録】

憧れのハーミィちやんの圖(部分)。

【陣中日誌兼戰鬪詳報】

朝、カレーライス(寫眞なし)。晝、ゴボウの炒飯。夜、合挽ミンチとタマネギのオムレツ母仕込み、山芋かけ飯、酒三合、ワイン一合。